#たのしいね

ボードゲーム作家2人が、日頃の楽しかったことばかりを書いておくので、何かの参考にしていただければ幸いです。ボードゲームの話題は「#ボードゲームたのしいね」に書きます。

『御社と弊社』秋イベントで発表する新作ゲームについてのメイキング的な小話。

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なかよしさんが、秋のイベントに合わせて『御社と弊社』というゲームを作りましたので、メイキング的な小話をご紹介。

「東京なかよしデザイン」として12月2~3日開催の東京ゲームマーケットに出展します。なかよしさんがブースを借りてるのは3日の日曜だけだから、もし万が一来てくれる人は注意してね。

 

この記事の目次。

 

これはなに?

●こんなゲーム

『御社と弊社』は、12月あたまのイベントに合わせて作ったカードゲームです。

読めますかね、おんしゃとへいしゃ。

まずは、どんな風に遊ぶのかを、かんたんにご説明します。

プレイヤーはそれぞれ別の会社の営業担当として、同じ数の案件カードを持って。
案件には他社向きの「御社」と自社向きの「弊社」があるので、それを他の人に差し出して、「受け取るか受け取らないか」選んでもらう。受け取ってもらえなかったカードは、自分で引き取ります。

手元に3枚、同じ案件を引き取る人が出たらゲームが終了。
集めた案件が「御社」3枚なら負け、「弊社」3枚なら勝ち。
という超ベリーシンプルなゲームです。

 

●お値段と仕様

2~4人で遊べるセットになっていて、お値段は、ゲーム本体が説明書付きで500円。

+500円で、箱が付きます。

創作ゲームのイベントになんか馴染みのない方がほとんどかと思いますので、仕様について細かく書きますね。

こちらは、東京なかよしデザインが勝手にやっている、アイデアをお安く具現化しようという企画の一環での制作物です。ワンアイデア、ワンチャレンジ、ワンコインです。そういうコンセプト作品ですので、標準では箱は付いておりません。基本は説明書とともにカードだけを、チャック袋に入れてお渡しします。

印刷も、考えうる限りもっと安価なモノクロの名刺規格です。とはいえ一応、お手製プリントではなく業者さんによる製品クォリティとなります。特装版という扱いに恥じぬよう、箱も、業者さん品質の立派な化粧組箱です。中色装飾もあり。なかなかお買い得なのでは??

これまでこのシリーズのゲームには箱は作っていなかったのですが、希望する方が多かったので、今回初めて用意しました。しっかり作ったので、よかったらご一緒にぜひ。なにとぞ。

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どんなもの?

●やりたかったこと

まずは出発点のお話。

ある日おしゃべりしていて、カジュアルな場面で「おんしゃ」と「へいしゃ」って口に出してたらそれだけで笑えちゃうような場面がありまして。

これって滑稽なロールプレイというか、「社会人コスプレ」みたいで、面白いかもしれないな、と感じたので、そういうことだけをするゲームを考えてみることにしました。

ネタ先行のゲームなので、ネタで気軽に買えるような、ワンコインの枠で作ろうということもセットで決めました。タイトルも、この時点で決まっていたようなものでした。

結果的に。

何にもしゃべらなくても遊び通せますが、やっていればたぶん自然と「…おん…しゃ…?」とか「へいしゃへいしゃへいしゃ~!」みたいな珍妙な言い回しばかりが口を付いて出る、ばかばかしいゲームに仕上がったんじゃないかと思います。

 

●遊びの参考にしたゲーム

<紹介ページ:メビウスゲームズ『ガイスター』>

遊びの参考にしたのは、ドイツ生まれの対戦ボードゲーム、『ガイスター』です。

ガイスターは、一見するとチェスのような、マス目のボード上で駒を動かす2人用のゲーム。お互いに同じ数の「良いおばけ」「悪いおばけ」の駒を持ち、交互に自分の駒を動かしながら、相手の駒を取り合います。

自分の「良いおばけ」を相手の陣地にある出口から逃がすか、自分の「悪いおばけ」をすべて相手に取らせたら、勝ち。

良いおばけと悪いおばけは、相手から見分けがつかないようになっているので、動かし方でうまく誤解させたり、動きを計算して追い込んだりするところに、ちょっとやそっとじゃ飽きの来ない面白みがあると思います。

ガイスターでボード上でやっていることを整理してみると、例えば「相手の駒を取るか取らないか」という判断を繰り返してる、というところがあるなと思ったんですよね。

実際に遊んでいると「うまく取らせる」とか「取らざるを得ないようにする」、あるいは「取れないようにする」みたいな文脈もたくさんあるんですけど。

おおざっぱに「相手の駒を取るか、取らないか」を繰り返すのが、遊びや駆け引きの、骨格として解釈できるな、と考えました。

『御社と弊社』では、ちょうどガイスターと同じ「良いおばけ」「悪いおばけ」に置き換えられる2つの要素が念頭にあったものですから。

「駒の動かし方」や「計算して追い込む」といった要素をすっとばして、「勝ち負けを左右する要素を、受け取るか受け取らないか判断する」部分だけを、カードゲームとして再現してみるミッションを兼ねて、やってみることにしました。

 

●カード作りの参考にしたゲーム

<紹介ページ:徳じろー商店『Oh~!ばかばかしかっ!』>

『御社と弊社』では、カードの絵柄は「御社」と「弊社」の2種類にしました。
そして、絵柄は2種類ですが、カードの構成としては3種類になりました。

どういうことかというと、表と裏面が同じ柄のものがあるのです。
つまり、表と裏が「御社弊社」のカードの他に、「御社御社」「弊社弊社」のカードがあるのです。

同じ構造を持ったカードやタイルを含むゲームは他にもきっと数多くあるのでしょうが、直近の作品で私が参考にしたのは「Oh~!ばかばかしかっ!」という同人アクションカードゲームです。

「おーばか」では、「うま」と「しか」の2種類の絵柄があり、枠線の色違いなどを含めるとカードの種類はもっとたくさんあるのですが、とにかく絵柄の組み合わせだけなら3種類しかありません。

「おーばか」はそのことを「リアルタイムにプレイヤーを見間違えさせる」ために、意図的にデザインに組み込んでいるところが、とても特徴的です。

ふつうはカードのデザインなど、「ひと目でわかりやすく」「なるべく見間違えないように」するものなのに。わざと「わかりにくくする」なんて!

「こんなひどいことしていいのか?いいに決まってる!」と、たいへん感銘をうけたものでした。そしていつか私も「しでかそう」と思っていたら、案外早くチャンスがめぐってきました。

とはいっても、「御社と弊社」で考えている遊びは、手番制ですし。「おーばか」のようなリアルタイムなアクションはなく、絵柄を見間違えて欲しいという仕掛けもないですから。

「裏と表が違う柄とそうでないやつがある」程度のデザインに仕上がりました。このことによって、手札のカスタマイズ可能性を若干担保するという恩恵もありました。

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●似ているゲーム

<紹介ページ:メビウスゲームズ『ごきぶりポーカー』>

遊びが決まって、カードの構成も決まって、いざ実際にやってみたらどんな味がするかしら、と想像した時点で、なんとなく予想はできていたのですが、試しに遊んでみたら、お、やっぱりこれはなかなかあれっぽいな。と思う既存のゲームがありました。

『ごきぶりポーカー』です。

「ゴキブリ」という言葉だけで過度にいやな絵柄を想像してしまっているかもしれませんが、ドイツ人の描いた擬人化イラストはカラフルポップでかわいいし。なによりおもしろいので、おすすめです。(2人から遊べることになってるけど、できれば3人以上でやってほしい)

すこし遊びの内容を説明しますね。
「ごきぶりポーカー」を一言でいうと、嘘を見破るゲームです。

ゴキブリを始めとするネズミやサソリなど8種類のイヤな生き物が1匹ずつ描かれたカードをやりとりして、同じ種類を4匹集めてしまうか、8種類すべてを集めてしまったら負け。という感じです。

やりとりする方法…というか、イヤな生き物を集めずに済ますには。

他のプレイヤーが「このカードはごきぶりです」などといって差し出してくる持ち主の発言のウソを、見破れるかどうかに掛かっています。

言っていることが「ウソ」か「ホント」かを指摘してから、めくって確かめます。

ホントのことを言っているのに疑ってしまったり、ウソをついているのに信じてしまって見破れなかったら、そのカードを引き取らなければなりません。

相手の証言を判断する根拠が、手札の偏りや、相手の表情しかなく、ゲームが進んで余裕がなくなっていくにつれ、追い詰められて過剰にニヤニヤしたりハラハラしたりしながら遊ぶゲームになります。

『御社と弊社』が『ごきぶりポーカー』と似てると思う部分は、手番ごとにカードを差し出して、それを引き取った結果を繰り返して、勝敗が決まるというところです。

それにしても、『ガイスター』を元ネタにカードゲームという形式で目指したら、「ごきぶりポーカー」に近づいた、のは、個人的には興味深い発見でした。もちろん他の方が取り組めば他の解釈がおこって、ぜんぜんちがう遊びになるんじゃないかと思うので。こういう話が面白いなと思う人はぜひやってみてほしい。

 

たのしいね!

●ここが違うと思うよ

「似ている」「似ていない」とは、比較の中で生じる感覚です。

そういうわけでここでは特に「ごきぶりポーカー」とはこんなところが異なるよ、という観点で2つのポイントをアッピールいたします。

①カードを受け取るかどうかが選べる

繰り返しになりますが、「ごきぶりポーカー」はウソを見破るゲームです。基本的にカードを引き取りたくはないので、「引き取らずに済む」ことだけを考えますが、うまくいくとは限りません。8分の1を見抜かなければ行けないので、確率的には、引き取らずに済むことのほうが少ないとすら言えるでしょう。

一方、「御社と弊社」では、カードを引き取るかどうかを自由に選べます。引き取りたくなければ、100%引き取らずに済みます。ただしリスクを避け続けるならば、そのぶん自分の勝利が遠のくかもしれないですし、それどころか相手の勝利に手を貸すことになるかもしれません。

②勝つことも負けることも目指せる

「御社と弊社」では、勝つことを目指すことも、負けないことを目指すこともできます。ゲームを始める前に、自分の手札のウラオモテを変更するカスタマイズも自由に行えるので、よりいっそうアグレッシブに自分の求める結果に迫ることもできちゃいます。

とはいえ口に出る言葉といったら、「おんしゃ!」とか「へいしゃ~?」なので、まじめにやればやるほどばかばかしく遊べることでしょう。

 

●「ならでは」ということ

さて、自分で考えたつもりのオリジナルゲームと、似ているゲームがすでに世の中にあることを知っていたら?

あとから自分のものを世に出すのは恥ずかしいよね、みたいな気持ちは、私にもかなり強めにあります。

オリジナルとは何か?みたいな話題は、ゲームを考える立場の人にとっては、みなに一家言あるトピックだと思います。アイデアは著作権では保護されない、なんて話も定期的に盛んに語られますし。ケースバイケースで語られるような程度問題でもあるため、わかりやすい答えは出にくいですからね。大なり小なりよく燃えます。

私は学生時代に熱心に音楽をやっていて、しぶめのジャズだったりしたのもあって、サブカルチャーみたいなものは、概ねなんでも拡大再生産だと思っています。

先人たちの積み重ねを、真似たり、なぞったり、崩したり、盛ったり、削ったり、混ぜたり、ときどき急に変えてみたりしながら、すこしずつ膨らむようにつながっていく。そこに寄与できるなら、ある程度なんでもいいとは思うんですよね。

音楽にも様々な換骨奪胎な論争があり、パロディだったりパクりだったりと言われます。ボードゲームも同様です。

例えば同人界隈だと「ガワだけ貼り替えた感じじゃない?」みたいな話題がときどきあります。ガワっていうのは外側、表面のこと。もちろん許可なく、有名なゲームのイラストだけ変えて売る、みたいなことです。

あとよく言われるのは劣化コピーなんてパターンですね。自称「改善した」とか、自称「オリジナルな要素を加えた」なんて結果、元ネタの良さすら失われてるね、みたいなことがたびたび聞こえてきます。

今回、私は、『御社と弊社』に関しては、「ちゃんと違う味がする」し、「派生の遊びだと考えたとしても十分オッケー」と思って、存在意義を認める判断をし、ゴーすることに決めましたが。

さてさてこの「御社と弊社」は、どんなふうに受け取られるのでしょうか。

いよいよいろんなところで遊んでもらえるのが、とてもたのしみですね。

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●さいごに

念を推しておきますが!
「パクってラクして儲けよう」みたいなのは、心底ダセえな~と思っています。そうならないように、目をよく開きながら侮らず、違うことを味わい、よろこび。あれこれ遊んだり、試したりを続けていきたいものですね。

これはまた今度記事を書こうと思っていますが…とかいいながら書こう書こうと書かないままですが、『国際桃太郎会議』というゲームを作ったときにも、「ゴキポに似ている」とおっしゃる方がいらっしゃって。

そのときは「そうですね~」と口ではいいつつも、「いやぜんぜん違うし」と思うところがございましたので、「似ているっていうのはこういうことだろ」ということで、この『御社と弊社』の発表を遅まきのアンサーとさせていただければ幸いです。

自分としては、「劣化ゴキポ」っていわれるようなら「ヘヘッ、そうだな!」てなるでしょうし。もし「劣化ガイスター」であることを指摘してくれるような人がいたら「おっ、アンタやるねえ!」って思っちゃいますかね~、うふふ。

 

●説明書を公開しています

御社と弊社の遊び方 2017秋版(公開用) - Google ドキュメント

 

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御社と弊社を間違えずに使えるよ、貴社も分かるよ、なかよし